早すぎた自由民主主義の勝利宣言(?)

シンガポールに住んで一番価値観が変わったこと、それは「アメリカが掲げる自由・民主主義が本当に全人類に取ってベストな政治形態なのか?」ということ。
私自身は自由な世界がよくてイギリスに引っ越してきたのですが、個人の好みはさておき、ベルリンの壁崩壊と共に共産主義イデオロギーが敗北したと欧米型自由民主主義が高らかに勝利宣言をしたのが20年前、「独裁制のイラクを民主国家にする」というよくわからない大義名分のもと(誰か頼んだっけ?)ブッシュがイラク侵攻し勝利宣言をしたのが7年前、当たり前だと思っていた民主主義ですが、シンガポールで「民主主義というイデオロギーの勝利宣言ってちょっと早すぎたのでは?」という疑問が芽生えました。

The Economistでちょうどその内容に合った記事が出ていたので紹介します。
The Economist : Crying for freedom

この記事自体は米国の人権組織「フリーダムハウス」が毎年行っている各国・地域の自由度を評価した報告書で世界で自由と人権が4年連続後退しているとした現状を分析したもので秀逸の記事、お勧め。
Freedom House : Freedom in the World 2010 Survey Release

記事ではもっぱら中国の経済的躍進をきっかけに「民主主義なくして経済発展は可能なのでは?」という希望をイラン、キューバ、アフリカなどの独裁者が抱いているとして民主主義の衰退が懸念されていますが、シンガポールも民主主義のない経済発展(世界の例外)としてさらっと何度か出てきます。

  • Transparency Internationalという世界各国の汚職実態を監視する独NGOによると汚職が最も少ない国上位30ヵ国のうち28ヵ国は民主主義国家(例外の2ヵ国はシンガポールと香港)。
  • 1960 - 2001年の世界銀行データによると民主主義国家の経済成長率が平均2.3%/年であるのに対し独裁制国家では1.6%/年である(ただし、シンガポール元首相のリー・クアン・ユーは「民主主義は無秩序な行為を導く」と断定したことがある)。
  • Global Innovation Indexという各国の革新度を指数にしたものでトップ25ヵ国のうち2ヵ国を除くき民主主義(その2ヵ国はシンガポールと香港)。
ことごとく例外のシンガポール、「都市国家だから統治が簡単」と片付けてしまうのは容易ですが、「政治がちゃんとしてると、何もない国がこんなに発展できちゃうのかー」とひたすら感心する国でもありました。 PAP(人民党)による一党独裁で(一応、形だけの選挙はある)、すべてがトップダウン(→『車のUターンは原則禁止』)、言論の自由もあまりない国ですが(→『メディア規制の影響』)、一般国民の官僚に対する信頼度は日本より遥かに高いです。

政府は優秀な学生の希望就職先だし(→『シンガポール大学生の人気業界』)、私も何度も政府と面談したことがありますが民間の意見に真摯に耳を傾けるすごく身近な印象(実行するときはトップダウンで有無を言わせないが、決断するまでの研究・調査は入念)。

一度道を外れて走り出すと止めるブレーキがないのが怖くもありますが、このまま「民主主義なくして経済発展あり」モデルでどこまで疾走し続けるのか非常に興味深い国でありました。
もっと巨大な中国についてはリー・クアン・ユーがこんなこと言ってます(↓)。
レコードチャイナ:中国人はそもそも「言論の自由」や「民主」に興味がない - シンガポール顧問相

Comments:7

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MyFireTan January 25, 2010 1:42 PM

>もっと巨大な中国についてはリー・クアン・ユーがこんなこと言ってます
わたしもこの記事を読んだ時、ナルホド〜と納得しました。それにしても毎日、毎日、毎日、毎日、うちのオフィスビルのグッチ、LVにはショッピングバックを両手に抱えた大陸の人でごったがえしています。しまいにはスーツケースを買い足してます(笑)@香港。

NETのシンガー January 26, 2010 11:56 AM

日本が高度経済成長を実現した1960~1980年代の日本の政治はその時代には、その頃の日本の正しかったと言うことでしょうか。

NETのシンガー January 26, 2010 11:57 AM

二重失礼します。では日本が高度経済成長を実現した1960~1980年代の日本の政治は、その頃には正しかったと言うことでしょうか。

Blondy January 27, 2010 10:11 AM

アリストテレスは政治論のなかで真の政体を、統治者の数に応じて、君主制、貴族制、共和制としており、
それが堕落したものを、暴政、寡頭制、民主制としています。つまり、民主制とは共和制が堕落したものという位置づけですね。

またウォーラーステイン氏は現行の資本主義的な世界経済は、社会主義的な世界政府へと移行し始めたところだという見解です。

私は、アジアのLiberal Authoritarianismの国々が経済的に成功を収め、Empire of Libertyである米国の覇権が後退し、多極化or無極化が進む新たな世界では、民主主義が絶対的にすぐれた価値観として認識されるようにはならず、むしろ遅れた政体と認識されるようになる可能性すらあると見ています。

↓にリー・クアン・ユー氏のインタビューを張ってあります。民衆主義? ハッハッハ と笑っておられます。
http://lecafedumonde.blogspot.com/2010/01/age-of-global-governance-part-5.html

la dolce vita Author Profile Page January 27, 2010 11:59 AM

>NETのシンガーさん
>日本が高度経済成長を実現した1960~1980年代の日本の政治は、その頃には正しかったと言うことでしょうか。

当時の経済発展段階時に当時の政策は正しかった、とも言えると思いますし、勤勉な国民人口が多い国がいったん成長サイクルに乗ると成熟段階までは多少政治がどうであっても経済は自律的に成長するとも言えると思います(「東アジア成長モデル」ってのがそれですね、台湾や韓国も同じ。 今の中国もそういう段階かもしれませんが、シンガポールは人口少ないのに、外から人・モノ・金を呼び込んで外部のリソースをテコに成長し続けているので、やはり政治が重要な役割を果たしていると思います)。

>Blondyさん
>民主主義が絶対的にすぐれた価値観として認識されるようにはならず、むしろ遅れた政体と認識されるようになる可能性すらあると見ています。
なるほど、Liberal Authoritarianismの国々も地球規模の問題を解決しようと努力するようになりますかね? シンガポール見てるとあんまり地球規模の問題には興味なさそうですが。

>リー・クアン・ユー氏のインタビューを張ってあります。
ありがとうございます。 永久保存版インタビューですね。
それにしてもすごいおじさんです。 もうだいぶお年なのですが、彼の死後、今のレベルのグリップがきくのかな、というのは興味あります。 リー・シェンロンもしっかり血を引いて帝王学を受けてますが。

MOMO January 28, 2010 1:21 AM

いつも楽しく拝読しています。
こちらのブログを読むようになってからシンガポールという国に興味を持つようになりました。輝かしい経済発展の裏で、言論の自由などが大きく制限されている国の国民はどんなふうに感じているのかな、と。
>一般国民の官僚に対する信頼度は日本より遥かに高いです。
私は国家権力を信頼しすぎてはいけないと思います。日本人は国家権力を信頼しすぎてて怖いと感じるのですが、もし日本よりもシンガポール国民が国家権力を信頼しているならば、それはある意味洗脳状態なのか?とまで思ってしまいます。
国民が経済発展のために独裁政権を自ら選択したのであれば、それはそれでいいと思うのですが、形だけの選挙で国民に選択権が無い現状には、私は懐疑的です。政治的自由のない国が発展し続ける可能性は低いと思います。
ただ、私自身はシンガポールに行ったこともなくどんな感覚なのかよく分かりません。動画を見てると、抑圧された感じはないですしね・・・。街はキレイで楽しそうです(笑)。これからどんな道をたどるのか興味深い国ではありますね。

これからはロンドン発のエントリーも増えるのかな?と楽しみにしています。10年前になりますがロンドンの大学に留学していていたので、la dolce vitaさんの視点からどんなイギリスが見えてくるのかワクワクします。

la dolce vita Author Profile Page January 28, 2010 10:48 AM

>MOMOさん
もうご覧になったかもしれませんが、Tag Cloudのシンガポールをクリックするとシンガポール関連のエントリーがいろいろ出てくるのでご興味あればぜひどうぞ。

>動画を見てると、抑圧された感じはないですしね・・・。街はキレイで楽しそうです(笑)。
抑圧された感じはないです。 街の雰囲気は日本より遥かに明るいですし(笑)。
抑圧されていると感じる人は国を出ていくという説もありますが、生まれた国に馴染めない人が国を出るのはどこでもある現象だと思ったり。
http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/07/post-233.php

シンガポール人と話していて「お上(が何とかしてくれる)思考」を強く感じることはままありますが、「あ、日本も同じだな」と思ったり。
ヒジョーーーに興味深い国です。

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