成熟国出身者のキャリア戦略

私が働いているのはいわゆる"ブティック系"の経営アドバイザリーファームで、現在のメンバーはイギリス人2人、スウェーデン人、私。 共通点は、先進国出身、投資銀行・コンサル・MBAというバックグラウンドで世界各地で10年以上の職務経験あり(大企業で働いていた時代も長い)。
そしてクライアントは本当にいろいろな業界から成りますが、経営者は欧米人で出身国で何年か働いた後、転勤など何らかのきっかけでシンガポールに来て「これからはアジアだぜ」と独立した、というSME(Small and Medium Enterprise)が非常に多い。 よって、経営者は欧米人ですが本社及びアジア統括会社はシンガポールです(すでにグローバル展開している企業もこれからの企業も)。

こういう環境にいてつくづく思うこと。

これは、先進国で受けた高度な教育や洗練された & グローバルに通用するビジネスのやりかたをフルに活用しつつ、すでに成長が鈍化した成熟社会(自分の出身国)ではなく、成長著しいアジア市場の勢いに乗ろうというキャリア戦略。
中国を目指す欧米人友達の話は『果たしてヤジ馬なのか歴史の証人なのか』に書きましたが、彼らは独身。 家族がいて子供の教育や生活環境を考えると確かにシンガポールはアジア市場をターゲットとする際、ベスト・オプション。

日本の高度成長期がそうであったように、右肩上がりの経済の中、企業の売上を拡大させるのはさほど難しいことではないのです。

そして、なぜ外から来た人に上記のようなキャリア戦略が可能かというと、おそらく理由は2つ。

1. エマージング・アジア出身者(*1)の高度人材が育っていない
*1・・・わざわざ"エマージング"と付けたのは日本と韓国を外すため

「高度人材」になるためには、グローバルに通用する高等教育(その多くは英米に集中→『教育における重要な変化』)、そして教育をエントリー・パスとした職務経験が必要ですが、発展途上国出身者は経済的理由などによりまだまだそのような教育機会に恵まれません(インドネシアの富裕層(華僑)の子女が英米大学留学など例外はあるが、彼らは卒業後戻ってファミリー・ビジネスをさらに発展させるために行く)。

なお、エマージング・アジアといえど、中国とインドは多くの華僑・印僑が海外にいるので高度人材がどんどん帰国して企業の要職についたり起業したりしていますが、他の東南アジアの国々では、まだまだ育っていないというのが現状。

2. ビジネスのやり方がグローバルに平準化している

中国とインドは知らないので東南アジア各国の話。
私は戦略コンサルBIG 3(McKinsey、BCG、Bain)で働く友達が多く、夫もある分野に特化した戦略コンサルなのですが、彼ら欧米コンサルファームは相当数多くの政府系プロジェクトをこなしています。 つまり国の重要政策の決定にはみっちり欧米コンサルファームがグローバルなベスト・プラクティス(*2)を持ち込んでいるのです(ドバイ政府の政策はほとんどマッキンゼーが決めている(いた)という噂)。
*2・・・ある結果を得るのに最も効率的な技法/手法/プロセス/活動

ここで、「欧米コンサルはすごいんだ」とか言いたいわけでは全くなく、「トップ層は自国経済を成長させるためには外の知恵を借りることに躊躇がないんだなー」と言う点に感慨を覚えます。 もちろん現場に落とし込んでいく際にはローカライズされたやり方が必要ですが、グローバルに平準化された分野では成熟国出身者の経験が活かせるわけです。

以上、人ごとっぽく「成熟国出身者が(会社としてでなく、個人として)成長市場に打って出るというキャリア戦略もあるよ」ということを書いてみましたが、さらに思うこと2つ。

このキャリア戦略、あと20年くらいはいけそうだけど、私たちの子供世代が社会に出る頃はどうなんでしょう? その頃はすっかりエマージング・アジアから高度人材が山のように出てきて経済も成熟し競争が激化しており、全員一緒になってアフリカとか行く必要あり???

また、せっかく「アジアがキタ!」という時代なのに、日本企業の一員として日本製品を売る以外のケースで、日本人であることがエマージング・アジア市場で活かせる(他の先進国出身者と比較して競争優位がある)点って皆無です、自分の実感として。
以前、同僚に「アジア市場での成長戦略をオファーするコンサルとして、アジア人( = 私のこと)だとcredibilityがあっていいよね」と言われたことがあるけど、いや、ないよ、全然・・・ 私たちが対象とするクライアントなんてグローバルなビジネス・プロトコルを兼ね備えたところばっかりだし、エマージング・アジア市場は日本市場とは全然違うし、優位性は全然ないです・・・
顔だけかしらね、「アジア」らしいのは・・・

Comments:8

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りっちょ November 4, 2009 9:13 PM

はじめまして。

いつも楽しく読ませて頂いております。

海外にいて日本の優位性を感じるところは
「ビザが取りやすい」くらいだとおもいます。

20年後は完全にグローバル経済均衡化が進み「国際的に標準化できていない非効率な市場にも対応できる人材」が求められてくるかもしれません。

シンガポール市場だけみるならこれだけ発展してもまだまだ不動産ガンガン立ってるし
高級バックのブティックに行列できてたりするし
発展の余地はあるのではないでしょうか。

大手町 November 5, 2009 1:44 AM

> せっかく「アジアがキタ!」という時代なのに、日本企業の一員として日本製品を売る以外のケースで、日本人であることがエマージング・アジア市場で活かせる(他の先進国出身者と比較して競争優位がある)点って皆無です

と同じ所でハマッております。
これって、日本以外の他国出身なら競争優位があることがあるのでしょうか?たとえば、中国出身なら華僑ネットワークを活かせるとか。
もし他国出身者に競争優位性があり、日本出身者に優位性が無いのであれば、同じ高度人材となった者同士の比較に置いて、日本人に国際競争力が無いことになります。その劣勢はどれぐらい大きいものなんでしょうか。
うーむ。

wgarai November 5, 2009 9:23 AM

いつも興味深いエントリーありがとうございます。

>中国を目指す欧米人友達の話は『果たしてヤジ馬なのか歴史の証人なのか』に書きましたが、彼らは独身。 家族がいて子供の教育や生活環境を考えると確かにシンガポールはアジア市場をターゲットとする際、ベスト・オプション。
確かに家族持ちにはシンガポールはベストかもしれませんね。中国は家族持ちがアクセルを踏み込んでビジネスをするには問題が多すぎます。

>「トップ層は自国経済を成長させるためには外の知恵を借りることに躊躇がないんだなー」と言う点に感慨を覚えます。 もちろん現場に落とし込んでいく際にはローカライズされたやり方が必要ですが、グローバルに平準化された分野では成熟国出身者の経験が活かせるわけです。
日本政府や企業はグローバルとローカルのいいとこどりをすればいいと思うのですが、残念ながら時代に逆行しているような感じです。いずれにせよこれからは欧米型の「民主主義+資本主義」ではなく、シンガポールのような政府がある程度統制をした上での民主主義(それを社会主義という人もいますが)+資本主義が世界の趨勢になるような気がします。

la dolce vita Author Profile Page November 5, 2009 9:40 AM

>りっちょさん
はじめまして。

>海外にいて日本の優位性を感じるところは「ビザが取りやすい」くらいだとおもいます。
たしかに観光ビザは取りやすいですが、Work permit(労働許可証)って取りやすいですか? 「日本国籍保持者優遇」という国は皆無だし(例えば、EU内はEU resident優遇、またcommonwealth国同士も取り決めあり)、その他の国と同じく取りにくいと思うんですが?

>シンガポール市場だけみるならこれだけ発展してもまだまだ不動産ガンガン立ってるし高級バックのブティックに行列できてたりするし発展の余地はあるのではないでしょうか。
シンガポールは人もお金も外から呼び込むのが基本ポリシーなので、もちろん成長の余地はあると思います。 どこまで行くのか見物ですね。

>大手町さん
>日本以外の他国出身なら競争優位があることがあるのでしょうか?
日本人でも「日本の大学・日本企業の出身でない人」、つまり「グローバルでトップレベルの欧米大学・欧米企業で勤務経験がある日本人」であれば、立っている土俵は他の欧米人と同じだと思います(言語も同様にできることが必須)、優位性はないと思います。
つまり、「日本人」ではなく、「日本の大学」と「日本企業での経験」がグローバルな舞台に出たときに優位性がないと言った方がいいかも(日本製品を売るという文脈以外において)。 もちろん、学歴などを上書きするため留学したり海外で働いたりするわけですが。
そして、この差は大学以前の「正しい解を導くことを求められ、自分の考えを表現することは求められていない」初等・中等教育あたりから徐々についていると思いますが、決定的なのはやっぱり大学以降かなー?

例え華僑だろうと、「中国関連ビジネス」「中国語を活かす」など中国つながりでない限り日本人と状況は同じですが、
1. 中国つながりのオポチュニティーが現在は莫大にある
2. 「華僑」の定義はOverseas Chineseなので、欧米で初等・中等・高等教育を受けている
点がだいぶ異なるかと。 華僑ネットワークは「中国関連ビジネス」をする限りにおいては強固だと思いますが、単に例えば「タイ政府プロジェクトに欧米コンサルの一プロジェクトメンバーとして入ります」だとあまり関係ないと思いますよ。

la dolce vita Author Profile Page November 5, 2009 9:50 AM

>wgaraiさん
>確かに家族持ちにはシンガポールはベストかもしれませんね。

日本企業は中国進出する際(近いので)直接中国行きますが、欧米企業はシンガポールに来ることが多いんですよ。 でも本当に中国本土内でビジネスをするのであれば現地に入って現地パートナーとやらなければ不可能(香港でさえダメ)、という話はよく聞きます。
事業の内容によりけりですが(川下であればあるほどコンシューマーに近い場所にいる必要あり)、シンガポールは「アジア統括会社」、別に各国に事務所や現地パートナーがいるってのが多いですね。 「統括会社」でも十分アジアの成長は感じられるのでみんな来るわけですが。

>いずれにせよこれからは欧米型の「民主主義+資本主義」ではなく、シンガポールのような政府がある程度統制をした上での民主主義(それを社会主義という人もいますが)+資本主義が世界の趨勢になるような気がします。

これは非常に興味深いポイントです。 私はシンガポールに来て以来、アメリカが民主主義の勝利を高々と宣言するのは早すぎたのでは?という思いが拭えません(この国、民主主義じゃないですよ、笑)。 世界の趨勢となるかは疑問ですが、まじめにブログ上で取り上げたいトピックなのですが、シンガポールを出たら書きます(政権批判と取られかねないので)。

mignon1117 November 5, 2009 11:23 AM

特に、シンガポールについて、ビジネスのグローバル化に対する順応性について同感するところがあります。
リー・シェンロン首相が、以前、「(雇用について)国の発展のために、外国人は安全弁だ」と言い切っていたことも、とても興味深かったです。

りっちょ November 5, 2009 7:36 PM

//
たしかに観光ビザは取りやすいですが、Work permit(労働許可証)って取りやすいですか? 「日本国籍保持者優遇」という国は皆無だし(例えば、EU内はEU resident優遇、またcommonwealth国同士も取り決めあり)、その他の国と同じく取りにくいと思うんですが?
//
× ビザがとりやすい
〇 ビザなしでいける国が多い
の間違いでした。

私はアフリカ亡国のパスポートを持ってるんですが
亡国だとどこもVISAなしでは渡航できません。
(VISAカードは取得できますが。。無論与信なしデポジット必須 苦笑)

la dolce vita Author Profile Page November 6, 2009 11:47 AM

>mignon1117さん
>シンガポールについて、ビジネスのグローバル化に対する順応性について同感するところがあります。
シンガポールの政策については過去にたくさん書いてますので、ご興味あれば右バーのTag Cloud "シンガポール" からどうぞ。

>リー・シェンロン首相が、以前、「(雇用について)国の発展のために、外国人は安全弁だ」と言い切っていたことも、とても興味深かったです。
NHK沸騰都市ですね。 シンガポールの発展は外国人労働者(高度人材、及び単純労働者両方)なしにはあり得ないので持ちつ持たれつなんですが、番組の中であの箇所だけフォーカスされてしまって、何だかな、って感じはします。

>りっちょさん
たしかに、VISAなしで行けるところが多いのは便利ですね、これは普段あんまり気づかないことですが(パスポートの話は以前書きました↓)。
http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2008/06/post-10.php

アフリカ某国ってのもすごいですね・・・ どこなのか興味があります・・・

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