最近、ロンドンからシンガポールに引っ越してきた夫の同僚D(フランス人)と彼の奥さんA(イギリス人医師)とよく一緒に食事をするのですが(こちらにも登場)、医師であるAが見るシンガポールが、私たちが普段の生活で見るシンガポールと全く異なっていて毎回非常に興味深い話が聞けます。
私はブログでシンガポールのことをいろいろ書いてますが、日常生活では一部分しか見れていないと思います。
それもそのはず、職場にシンガポール人はいないし(これは少規模のプロフェッショナル・ファームに共通するが、シンガポール人は大企業志向が非常に強いので、小規模ファームが能力主義で採用すると外国人ばかりになる)、友人のシンガポール人はこういう人たちが多いし、規制が強くてつまんないから地元メディアは読まないし見ないし(→『メディア規制の影響』)。
私たちの環境の性質上、民間のビジネス目線でシンガポールを見て気づくことは多いのですが(*1)、Aのように医師として貧困層のシンガポール人を診ていて気づくことには全く気づきません。
*1・・・私は、1人あたりGDP上はアジア一になったシンガポールが(GDPが完璧な指標ではないことは百も承知の上で、→『「幸福度」をGDP算出に』)今後も成長を続ける上で一番障害となるのが、「多国籍企業に雇用されやすい人材」をつくるという国の教育政策ではないかと思っています(こちらやこちら参照)。 これって他国でもマネできる陳腐化しやすいモデルでは?
ところが、Aが見るシンガポールは「福祉のない国での貧困」です。
バックグラウンドを説明すると、彼女はいわゆるGP(General Practitioner)(*2)です。
*2・・・ホームドクターやファミリードクターとも呼ばれ、歯科を除くすべての一次診療を行う。 GPシステム(英国発祥)を採用している国ではGPに行って専門医への紹介状をもらわないと専門医にはかかれない(日本のように自分で判断して、内科・眼科・整形外科など個別の専門医にかかるシステムとは大きく異なる)。 参考:英国の家庭医教育システム
イギリスのGP免許を持つAはシンガポールのポリクリニックと呼ばれる国営医療機関で1年数ヶ月GPとしての経験を積んで初めて、シンガポール各地の私立病院でGPを勤めることができるため、現在はポリクリニックで毎日6時間ぶっ続けの診療(1人の患者あたり診療時間10分)を昼食挟んで2回、週6日(週休1日)こなしています。
国営のポリクリニックは予約を取れないため長時間診療を待つ必要がある反面、私立よりも医療費が安いため(診療1回SGD9 = 約600円)貧しいが医者に行かざるをえないほど体調が悪くなった人が数多く訪れるのだそうです。
シンガポールを訪れたことがある人は、ホーカーセンターの中でティッシュを売っている老人(*3)や食器の後片付けをしている老人を想像してください。 彼女が診ているのは、ああいう人たち。
*3・・・シンガポールでは物乞いは違法なので、ティッシュ売りは形を変えた物乞いです。 路上に寝るのも違法です。 他国ではどんなに違法にしても発生してしまうと思うのですが、国土が小さく統制が厳しいシンガポールでは法律はかなり厳密に実施されています(さすがにゴミを捨てるとどっかから秘密警察が飛んできて逮捕とかはない)。
そして、彼女が診る患者(多くはかなり重大な疾患を抱えた貧しい老人)の多くは薬を処方しても薬代を払えない、専門医を紹介しようとしても専門医への医療費が払えない、のだそうです。
シンガポールは街がきれいでホームレスがいないため(本当はいるが見えない)、一見すると福祉の充実した国のように見えるのですが、実は「働いて自己責任で自分の面倒を見ろ」という「小さな政府」です(でないと、法人税18%、所得税最高20%という低税率にできない)。
無料の国立医療システム(NHS)があるイギリスから来た彼女は、「"貧乏人は死ね"というのか?」と憤っていました(イギリスのNHS自体問題山積みで誉められたものではないが、先進国なのに最低限のセーフティネットがないという事実を指摘している)。
私もシンガポールのジニ係数(所得格差を現す)が48とアジア最高レベル(中国やカンボジアより高い)であることは知っていましたが、魅力的な税制に惹かれた富裕層が流れこんでいるのが主因だと思っていました(→『グローバル富裕層争奪戦』)。
CIA - The World Factbook : DISTRIBUTION OF FAMILY INCOME - GINI INDEX
たしかにシンガポールの国家政策はF1誘致(今週末はまたF1グランプリ)やカジノ・リゾート誘致などいまだに国外から資本を呼び込む開発優先の傾向があると思っていましたが、通常の民主主義の先進国では貧困層の実態をマス層である中間層が知り行動できれば、その政策に異議が唱えられるんでしょうけどねえ・・・(実質一党独裁でメディア規制のあるこの国では、それも実現しないか・・・)
ともあれ、私が気づかない視点をくれたAに感謝。
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on
- September 22, 2009 12:40 PM
- 3. マネー・ファイナンス | 税金・社会保障 Tweet
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