オーストラリアのアジア化構想

私は6年前に留学先で多くの白人オーストラリア人(たぶん、みんなイギリス系)に出会うまで、オーストラリア人とカナダ人は性格が似ているんだろう、と勝手に思ってました。
日本ではワーホリの広告などで、カナダとオーストラリアは「大自然、大らかな人々、生活環境が良い」など似たようなポジショニングであっため、「カナダの暖かい版だから、カナダ人よりさらにeasy-goingなんじゃないの」くらいのイメージ(トロントに住んだことがあったのでカナダ人はちょっとわかっていた)。

知り合ってわかったことは、オーストラリア人(イギリス系)はカナダ人とはぜんっぜん違います。
はるかにイギリス人と近い。 メンタリティーもそうだし、志向がイギリスに向いていて、大学を卒業し20代のうちに数年ロンドンで働くのは非常にポピュラー(子供が生まれるとオーストラリアに戻る人が多い)。

衣料品、食品などのコンシューマー製品も欧米向けと同じマーケティング(商品、広告・宣伝)が基本路線で、それにアジア系などマイノリティーに向けたサブバージョンも作る、と聞きました。

それだけにケビン・ラッド首相が去年アジア・太平洋共同体構想を打ち出したときはちょっと驚いた。 「いや、キミに"共通の価値観"とか言われても」みたいな。
日本記者クラブ記者会見(2008年6月11日):「アジア・太平洋共同体」を提唱する

australia_asia.jpg
オーストラリアは"the most Asia-literate country in the collective West"(西洋諸国の間で最もアジアを理解する国)を目指しているらしく、アジアの言語や文化の学校教育に力を入れているそうです(夫のいとこの子供も3人とも = 10-11歳、小学校で中国語を学習中)。
The Economist : Rudd floats an Asian balloon

『本、大人読み』で紹介した『Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed』(日本語訳:『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』)は5大陸の中で最も土壌が貧弱で環境問題が深刻なオーストラリアの現状までの分析と未来への提言が行われており、非常に興味深かったです(以下、要約。 一部、私の解説)。

オーストラリアは元来貧弱な土壌や少ない動植物種のため、少数の原住民(アボリジニー)が狩猟採集型の生活様式を送っていた(5大陸の中で唯一、自然と農耕文化が発達しなかった)。 ところが入植してきたイギリス人が(肥沃な土地を持つ)イギリス的価値観と外来の動植物をそのまま持ち込み、生態系の破壊は深刻なものとなっている(イギリス人がキツネ狩りを行いたいがためにキツネを持ち込み、キツネのエサとしてウサギを持ち込んだ。 そのウサギは大繁殖し多くの原生種を絶滅に追い込み、草という草を食い荒らし害獣と見られている。 オーストラリア人はかわいい愛玩動物としてのウサギではなく害獣としてのウサギしか知らない)。

入植者のメンタリティーも自分たちが優性だという発想で原住民の白人同化政策を取り(→『アボリジニーへの"Sorry"』)、国の移民政策も1973年までは白豪主義を取っていた。

ところが、オーストラリアの生態系は現在崩壊寸前でありヨーロッパ式農業をいつまでも続けるわけにはいかない。 また、世界経済がますます地域ごとに一体化している中、イギリスとの関係よりお隣のアジアとの結びつきを強めアジア・太平洋として未来を生きていく必要がある。 それには伝統的な価値観にしがみつくのではなく、新たな環境への適応が必要で、オーストラリア人自身がマインドセットを変える必要がある。

本の中では、伝統的な価値観にしがみついたばかりに絶滅した文明の例(グリーンランドに移り住んだスカンジナビアの人々(ノース)はヨーロッパ流の生活様式にとらわれすぎ、イヌイットの狩猟方式を学ぼうとしなかった結果、絶滅に至った)も挙げられており、オーストラリアも同じ轍を踏まないようにと警告されています。 まさに"survival of the fittest"(適者生存)であり"survival of the best"(優者生存)ではないのですね。

この「伝統的な価値観にしがみついて絶滅してしまっては元も子もない」部分、オーストラリアだけに限った話ではない、といろいろ考えさせられません?(昨今の「日本はもう立ち直れないのか」議論とか)

先日シンガポールに遊びに来た夫の両親も「オーストラリアは変わったわよ」と言っていました(どんどんアジア化している)。
30年後くらいには「オーストラリアはアジア」という表現にあまり違和感を感じない時代が来るかもしれません。

Comments:11

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Kei May 9, 2009 3:32 PM

興味深いですね〜。確かにうちの会社でもオーストラリアはアジア圏に入れられてますが、そこでのマーケティング戦略は北米に近いですね。
シンガポールがアジアの拠点で東アジア諸国は同じ方向性で拡大戦略をうちの会社はとってるけど、日本だけ完全に異端児的マーケット扱い。まさにガラパゴス化扱い...?(笑)

オーストラリア現首相が中国語が達者というのも、オーストラリア人の友人から聞きました。首相の家族は中国好きで、娘の婿は中国系とか...?

ビジネスやマーケットという意味で中国を中心としたアジア新興国にフォーカスするのは欧米にありがちですが、オーストラリア現首相は中国の文化とか歴史も含めて大好きなんでしょうね〜。
(その分、日本がおざなりになってると言う声も...)


自分はオーストラリアというと白豪主義でアジア人差別のイメージを前は持ってましたが、オーストラリア人の友人いわくアジア系移民が激増してるし人々は彼らにオープンに接してるらしくて意外だと思いましたね。
友人はイングランド、あと多少イタリアとハンガリーにルーツを持つ所謂豪州でメインの白人層?ですが、アジア大好きで姉とともにボーイフレンドは日本人を含めた東アジア系だけとい

yk May 9, 2009 10:26 PM

こんにちは。私はANU(オーストラリア国立大学)でAsian Studies & Economicsを専攻しておりました。この学部では「アジアの中のオーストラリア」が強調されていました。貿易相互依存性とか、移民政策など。アジア政策はAPEC構想を打ち出した前労働党政権のキーティングが率先して行ったようですね。ハワードになって一旦止まりましたが。。。
シンガポールに来るきっかけとなったのも、ここでの経験です。

当時はあまり英語もできなかったのですが、Asian Studiesの学生が興味深々に日本のことを聞いてきてくれたので、友達作りには苦労しませんでした。良い思い出です。ただ首都キャンベラに居たと言うと「So sorry to hear that」とかよく言われます;(

la dolce vita Author Profile Page May 10, 2009 1:30 PM

>Keiさん
>オーストラリア人の友人いわくアジア系移民が激増してるし人々は彼らにオープンに接してるらしくて意外だと思いましたね。
シドニーやメルボルンはそうでしょうね。 うちの夫の友達も半分くらい中国系だけど、これは彼がEngineering degreeだったからだと思います。 理系はアジア系ばかりだそう。

>ykさん
>Asian Studiesの学生が興味深々に日本のことを聞いてきてくれたので、友達作りには苦労しませんでした。
確かにAsia Studiesだとみんな興味津々だったでしょうね。

>ただ首都キャンベラに居たと言うと「So sorry to hear that」とかよく言われます;(
夫の祖父母がキャンベラに住んでいるので行ったことがありますが、すごいところですよね。
The Economistでこんな風に言われていました(↓)。 ひどいなー(笑)
Canberra, a capital whose eerily empty streets and subterranean parliament suggest a Pyongyang without the dystopia

ドイツ特派員 May 10, 2009 4:57 PM

la dolce vitaさん、

どうでもよいこと(でも私には大事なこと)ですが、オーストラリア、既にサッカーでは立派なアジアです。2005年からOFC(オセアニアサッカー協会)からAFC(アジアサッカー協会)に移籍、今まで多くの場合はプレーオフで涙を呑んでいたW杯出場も、今後はかなり連続して出てくるでしょう。今回もまず間違いなし。また、クロアチア系がかなり多いのも特色ですかね?別にアジアのアイデンティティに目覚めたわけじゃ無いんですが、じゃあOFCに残っているニュージーランドとの違いは何ですか?と言われても良く分かりません。

代表選手はやはりイギリス・プレミアリーグやドイツ・ブンデスリーグで活躍している連中ばかりで、スタイルも完全に欧州サッカー。足技は上手いわパワーはあるわ戦術は徹底しているわで大変なんですよ。これでもしヴィエリがイタリア代表じゃなくてオーストラリア代表だったらと思うと....(というのはサッカーファンの戯言です)。とはいえ、こういうチームが同じアジアに入ることは、日本及びアジアサッカーの水準向上には大事なことでしょう。やはり高い目標が大事だということで。

しかし、このネタになると全く冷静さを失ってしまい、こうやって書いていても日本代表の節目の試合を思い出して涙が出そうになる私です。

Hiro May 11, 2009 12:02 AM

こんにちは。はじめまして。このブログはとてもためになる話ばかりでちょくちょく読ませていただいてます。

僕はいまオーストラリアの大学院で勉強しているのですが、まだまだオーストラリア人のことがよく分かりません。アメリカ人とは全然違うことは分かってましたがカナダ人とも違うんですね。

>ケビン・ラッド首相が去年アジア・太平洋共同体構想を打ち出したときはちょっと驚いた。 「いや、キミに"共通の価値観"とか言われても」みたいな。
アジア・太平洋共同体ではなくEast Asian Communityにするべきだという意見もあるようです。
http://www.eastasiaforum.org/2009/05/02/why-do-we-want-an-asia-pacific-community/

>オーストラリアの生態系は現在崩壊寸前でありヨーロッパ式農業をいつまでも続けるわけにはいかない
水不足も問題になってますしね。
http://www.economist.com/world/asia/displaystory.cfm?story_id=13611117&fsrc=rss

>アジアとの結びつきを強めアジア・太平洋として未来を生きていく必要がある。
ケビンにはアボリジニーへの"Sorry"などで好感を持ってるんですが、まあいろいろと歴史もあるし、オーストラリアがアジアの一員になるにはまだまだ長い道のりが必要だなと思います。捕鯨問題や、アボリジニの人たちなどに対して、一部のラディカルな人には残念ながらまだ差別的な言動があると思います。

ところでこっちの学生ですが、中国語だけでなくインドネシア語や日本語を学んでいる人もいますよー。以前日本語で話しかけられてとても嬉しかったです。

ではでは、これからも投稿楽しみにしています♪

la dolce vita Author Profile Page May 11, 2009 9:38 AM

>ドイツ特派員さん
>オーストラリア、既にサッカーでは立派なアジアです。
そうですね、ちなみにこのネタ、たぶんオーストラリア人より日本人の方がよく知ってます。
特に夫の出身地であるメルボルンではfootballといえば、Aussie football。 局地的にですが、異常に人気があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/オージーフットボール

私が夫に「オーストラリア、ワールドカップにたくさん出られるようになってよかったねー」と言っても「あー、そういえばそうみたいだねー」と何の感動もありませんでした(苦笑)。

>Hiroさん
コメントありがとうございます! 学生生活、うらやましいです。

>まだまだオーストラリア人のことがよく分かりません。
私もわかりません。 ひとつ言えるのは「オーストラリア人っぽい」とか平均を求めてはいけないのだと思います。 アメリカ人にも平均がないように、オーストラリア人にも平均がないような。 私が上記で書いているのはあくまでイギリス系の一部の話ですし。

>捕鯨問題や、アボリジニの人たちなどに対して、一部のラディカルな人には残念ながらまだ差別的な言動があると思います。
捕鯨問題は私もよく聞かれます、「日本人はクジラを食べるのか?」と。 私はクジラを食べたことがないのですが、どうしてあんなに感情的になるのかわからないのは、私が海外での報道のされ方を知らないからだと思います。 何でも物事の両面見て意見が言えるようになりたいですね。

>中国語だけでなくインドネシア語や日本語を学んでいる人もいますよー。
そうそう、「大学のとき日本語習ったんだけど難しくて、大学卒業したら使わなくなり忘れちゃった」って人によく出会います。 日本人の第二外国語も使える人なんてほとんどいないから当然なのかもしれないけど、「日本語難しすぎて・・・」って人、どうにかならないかなー?とよく思います。 せっかく始めたのにもったいない!
日本で就業機会がある、とか、彼らに実務で使えるフレキシブルな進路があれば、もっと日本語定着するだろうに。

sunshine May 12, 2009 2:14 AM

環太平洋グループとして中国、韓国、シンガポール、オーストラリア人たちとたまに会食会をするのですが、どうしてもオーストラリア人には違和感があります。
オーストラリア人以外は、それぞれの国の歴史をある程度理解して微妙な立場を保ちながら関係を築いており、そしてカナダ内においてはマイノリティということもあり団結しており結束力は高いです。また、欧米人が交る社交の場だと欧米式の挨拶をしていますが、本当のアジア人(除く豪)だけの場合はアジア系の挨拶をします。
オーストラリア人が本気で環太平洋グループに属したいならば、もちろん言語の習得も必要ですが、歴史や文化全てを知る必要もあり、道のりは長いでしょうね。
余談ですが、オーストラリア人の英語はとても分かりにくいです。自分でもアクセントが強いからと言っていますが、全く直すつもりはないようです。しかも子供が最近カナダ英語になってきたとボヤいています。かたや、完璧なブリティッシュイングリッシュの友人は子供がカナダの学校にいるからということでカナダアクセントで喋っています。オーストラリア人よイギリス人をみならって!!!

la dolce vita Author Profile Page May 12, 2009 11:13 AM

>sunshineさん
>オーストラリア人が本気で環太平洋グループに属したいならば、もちろん言語の習得も必要ですが、歴史や文化全てを知る必要もあり、道のりは長いでしょうね。
場所にもよるでしょうね。 日本や中国に住む欧米人(オーストラリア人に限らず)は、郷に入っては郷に従う挨拶をするので、カナダという土地柄とその人の個人のやる気次第ではないでしょうか?
歴史解釈の違いによる立場の間合いの取り方は難しいですね、日本人でも難しいので、他地域の人にとっては尚更だと思います。

オーストラリア人とイギリス人の英語についてですが、このケースは個人差だと思います。 それぞれ20人以上知っていますが、どちらがアクセントを直すことに柔軟で、どちらが頑固という傾向はないです。

アクセントが変わるケースは、周りのアクセントが自然に移ってしまう場合と、周りに理解されにくいため努力して直す場合とがありますが、sunshineさんのご友人はそのどちらでもないんでしょうね。 私も夫もアクセントが自然に変わってしまうタイプなので、私はシングリッシュが移らないように必死です(さすがにnativeの夫にはシングリッシュは移らないようですが、努力もしていないのにオージーアクセントが消えてしまい、今では誰にでもイギリス人と間違えられます)。

JA1 May 12, 2009 2:18 PM

こんにちは。メールは先日、失礼かと存じましたが送信させていただきましたが、初めてコメントさせて頂きます。

>>日本や中国に住む欧米人(オーストラリア人に限らず)は、郷に入っては郷に従う挨拶をするので、

ん??そうなんですか?私は外資系に勤務しておりましたが、勤務先の日本在住の英、米、豪州、ニュージーランド人はあくまでも、母国流でしたが。英語訛りの「コニチハ」程度は言ったかも知れませんが、日系クライアントの日本人に対しても日本流の挨拶はしてませんでした。私の知ってるケースが亜種なのかも知れませんが、そうでした・・・。

la dolce vita Author Profile Page May 13, 2009 9:29 AM

>JA1さん
>勤務先の日本在住の英、米、豪州、ニュージーランド人はあくまでも、母国流でしたが。
こういう類いの統計はないので、「私の周りは」で語っても全体像は見えない、その個人と環境による、というまとめですね、きっと。

Kei May 23, 2009 11:31 PM

あ、自分の投稿したコメントが途中で切れてて恥ずかしい(笑)。携帯から投稿してましたが、端末仕様で文字数制限あるみたいで気をつけます…f^_^;
途切れたコメントは「友人のオーストラリア人は姉妹そろってアジア人ボーイフレンドしか今まで付き合ってなく、アジアのカルチャー大好きっ子で日本に長期滞在中」というような内容なんで、どうでも良いっちゃ良いですが(笑)。

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