ここ数週間、朝起きるたびにウォールストリート(最近はロンドンシティでも)で新たな買収・合併のニュースがあるので、起きるのがこわごわ楽しみな今日この頃。
今回の金融危機の原因分析etc.に関しては、私は専門外なので他の人にお任せするとして、世界でも注目を浴びている邦銀/証券のグローバル金融市場へのカムバックについて。
もちろん野村証券によるリーマン「アジア太平洋部門」「欧州・中東部門」の買収と、三菱UFJによるモルガンスタンレーへのUS$9bil.出資のことです。 The Economistの評価は概ね「お手並み拝見」といった論調(↓)。
The Economist (Sep. 27th, 2008) : The big boys are back
The Economist (Oct. 4th, 2008) : The Japanese are coming (again)
この2つのニュースを聞いた私の感想は、
「はやっ!」
「いやー、これから大変よー」
の2点です。
まず、1点目の「はやっ!」について。
私は前職で企業投資の現場にいたのですが、企業の株式取得には、デューデリジェンス(財務状況、法務リスクの精査)、及びバリュエーション(企業価値評価)を行い、価格を含めた条件交渉を買収候補先と行いながら、同時並行して社内の出資(買収)稟議で社内(今回のようなケースだと間違いなく取締役会)の許可を得ます。
通常のM&Aではデューデリジェンスとバリュエーションに数週間(M&A先の規模によるが、非常に過酷な作業であるため、長過ぎるとチームの体力・モチベーションともに持たない)、並行して進める社内稟議も関係者への根回し、利害調整に数週間、と最低2-3ヵ月はかかるプロセスです。
野村証券のリーマン買収は株・債券・不動産などの資産継承を伴っていないので(下記記事参照)、詳細なデューデリが必要なかったとして、驚きの速さだったのが三菱UFJ。
DIAMOND Online : "安い買い物"となるか? 野村のリーマン「2ドル」買収
下記REUTERSの記事によると、デューデリでは「120人の人材を投入し、リスクの高いところを中心にアプローチした」とのことですが、9月15日のリーマン破綻、バンカメによるメリル買収、に端を発した金融市場のパニックから、9月29日のモルガンスタンレーとのUS$9bil.最終合意までわずか2週間。
REUTERS : 三菱UFJのモルガン増資引き受けで評価二分
私は三菱UFJグループに知り合いがいないので、100%想像ですが、こんな状況だったのでしょうか?
- 米証券5社のうち3社が消え、残る2社(ゴールドマンとモルガン)の存続が危ぶまれた9月15日週、モルガンからMUFJ首脳陣に出資の打診あり
- 首脳陣が好機と判断し、MUFJのデューデリチーム120人をウォールストリートのモルガンオフィスに送り込み、デューデリチームは徹夜のデューデリ作業開始
- 東京本社側の受け皿チームも徹夜で随時アップデートされる資料を受け取りながら社内作業(ニューヨークとの時差13時間)
- 臨時投資委員会のメンバーもいつでも臨時委員会が開けるよう待機
- 一刻の猶予もないモルガン側要請によって、5日間のざっくりデューデリ終了、タームシート作成
- MUFJ交渉責任者(M&A部門トップ?)がモルガン首脳陣とタームシートを基に株取得条件交渉、条件合意
- 東京側で待機していた投資委員会で案件会議開催、可決
- やきもきしているモルガン側に合意の旨連絡、合意発表
とかく最終権限者が不明であること(合議制)、意思決定のクライテリアが分かりにくいこと、そして意思決定が遅いことで知られる日本企業ですが、MUFJの2週間は速い!
欧米企業の場合、決定権限を持つトップ自ら交渉に当たるので交渉の場で決断が下されることも多いのですが、日本企業の場合、稟議による合議制が敷かれていることが多いので、上記のように緊急体制が敷かれたのではないか・・・と想像。
このUS$9bil.の成否はこれから問われるのですが、「何もしない」のは大きなリスクなので、このような業界再編の時期にグローバルなスピードに合わせた決断が下された実績は素直に賞賛に値する、と思います。
2点目の「いやー、これから大変よー」について。
日本企業と欧米企業は意思決定の仕組みも異なりますが、マネジメント(経営)スタイルとカルチャーはより大きく異なります。
三菱UFJの場合、20%株式取得なので最終的にファイナンシャルリターンが得られれば目的を達成したことになり、企業文化の融合まで図る必要がないのですが、問題なのはリーマンの人材だけを確保した野村証券の方。
個人的にはリーマンと野村証券の文化の違いは、(合併して9年の後)失敗に終わったダイムラーとクライスラーの文化の違いより大きいのではないかと思っています。
特に野村証券が獲得したかった(のであろう)リーマンのフロントオフィスのプレーヤーともなれば、自分の腕一本で業界を渡り歩くのは当たり前(時によってはチーム毎ボスについていく)。 前述の記事にも書いてありますが、野村をとりあえずの失業保険代わりにしながら転職活動をするのではないか、と。
野村証券も10月の人事異動で外国人を役員に迎え(下記の記事)、引き留めの準備は進めているようですが、重要なのは現場のマネジメントですからね。
NIKKEI NET : 野村、執行役員制度で外国人登用 グローバル展開に備え(9月29日)
金融から始まったグローバル企業への転身とその課題(意思決定、経営スタイル、企業文化の融合)は何となくこれから他業界の日本企業が続々と直面する事象の予告編のような気が。 引き続き注目しています。
<追記 10月12日>
The Economist (Oct. 4th, 2008) : The Japanese are coming (again)の日本語訳を発見しました(↓)。
JBpress:M&A 日本勢が(再び)やってくる
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